製薬会社/サプライヤ間に生じるクオリフィケーション関連活動のギャップ等とその対応例
【シート略名:GAP本文】
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1. ユーザー要求仕様書(URS)
1-1. URSに記載する要件の範囲について
製薬会社/サプライヤ間のギャップ等
発注者である製薬会社側は、仕様の抜け/漏れが無いよう、品質に関わる要件以外(安全/環境/ビジネス)も含め全てを盛込む場合がある。一方サプライヤ側としては、DQにおける検証範囲として品質に関わる要件に絞りたい。URSに盛り込む要件の範囲は、GMP/プロセスをはじめとする品質に関わる要件だけではなく、安全や環境対策等の重要な要件も含むべきとの考えがあるが、どこまで盛り込むべきか。
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製薬会社/サプライヤ間のギャップ等に対する考え方と対応例
・URSを作成していく上で、品質に関わる要件とそれ以外の要件を分けて管理することは難しいため、最低限品質に関わる要件を記載することとし、それ以外の要件の記載は各社の判断に任せる。
・ 製薬会社の実際としては一般的に、品質に関わる要件とそれ以外の要件を分けてURSは作成していない。
ただし、品質に関わる要件だけを抽出可能とする様に、品質/安全/環境/ビジネス等を記号やマーキング等で識別することはある。・サプライヤは、設備・機器に関する要求であれば、品質に関わる要件以外も全て網羅されていた方が設計・仕様決定の上で漏れがなく助かる場面はある。
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1. ユーザー要求仕様書(URS)
1-2. URSの作成対象設備について
製薬会社/サプライヤ間のギャップ等
GMP/プロセス要件を持たない、品質に直接影響し得ない設備のURSは必要か。
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製薬会社/サプライヤ間のギャップ等に対する考え方と対応例
・基本的に品質に直接影響し得ない設備(消火設備等)のURSの作成は不要と考えるが、作成の要否は各社判断に任せる。
・製薬会社での実際としては、品質に直接影響し得ない設備であっても、製造に関与する設備の場合には、URSを作成する場合がある。なお、URSの起案の要否は対象設備を決定する活動(例えば、システムインパクトアセスメント)やSOP等で規定している。
・対応例としてはまず構造設備のインベントリを整理し、構造設備をシステムとして定義する。その上で本インベントリに対し、製品品質への影響有無の分類(例えば、システムインパクトアセスメント)を行い、クオリフィケーション対象設備を抽出する。URSはクオリフィケーション対象となったシステムに対して作成する。
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1. ユーザー要求仕様書(URS)
1-3. URSにおけるGMP要件の記載内容について
製薬会社/サプライヤ間のギャップ等
URSにGMP要件を盛込む場合、準拠対象とするGMPのタイトルだけを記載すればよいのか、それとも各条項の文面までもれなく記載する必要があるのか。また、GMP要件を盛込む場合、どの範囲までを対象とするか。(省令等の法規まで?あるいはガイドラインも?ガイドラインの範囲は?)
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製薬会社/サプライヤ間のギャップ等に対する考え方と対応例
・まず前提として、どの国のGMPに適合する必要があるかは記載が必要。ただし、その国がEUやPIC/S、WHO等に加盟されている場合には、該当機関のGMP適合を記載することもある。
・URS文書内には適用とするGMPのタイトルまでを記載し、各条項の文面までは記載せず、GMP要件を踏まえて要求仕様を記載する。
・DQ時にGMPチェックシートを作成し、そこに各条項の記載内容を網羅する。アネックス15ではDQにおいて、製薬会社はGMPに則った設計であることを規制当局に対して実証(Annex15原文ではdemonstrateと表現)しなければならない。やり方については、条項毎にチェックシートを起こす方法もあるが、GMP要件を整理(例えば、汚染防止、交叉汚染防止、他)して該当する条項と結びつける方法もある。この後者の方法では、その整理したテーマに対して一括りで実証することで効率化が図れる。
・当該国のGMPに準拠する場合、省令レベルの参照は必要。ただし、その国がEUやPIC/S、WHO等に加盟されている場合には、該当機関のGMPに対応させることもある。
・ガイドラインについては製造する薬(無菌,生物学的,植物性,血液由来他)や対象とする設備(コンピューター化システム等)により関係するものを抜粋する。
・チェックシートを起こす場合、どの要件がどの設備に該当するかを明確にしたマトリクスを作成する方法もある。
・あるサプライヤからは、「製薬会社によりGMP要件の中から絶対に必要な要件を絞ってもらえると助かる。ガイドラインの中には改訂予定のものや改訂したてのものもあり、チェックシートの新規作成や翻訳が必要な分、かなり時間と人手が掛かる場合がある」との意見あり。
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1. ユーザー要求仕様書(URS)
1-4. プロセス要件とコンピューター化システム要件に関するURS構成について
製薬会社/サプライヤ間のギャップ等
一般的に、プロセス要件は比較的早い段階で確定するが、制御に関する要件は総じてプロセス要件の確定時期より遅く確定する。この場合、プロセス要件とコンピュータ化システムに関連する要件のURSは分けて作成するべきか、それとも一つに纏めて作成するべきか。
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製薬会社/サプライヤ間のギャップ等に対する考え方と対応例
・通常、PLC等を組込んだパッケージ設備等は、プロセス対応の設備要件に自動化要件を併記する。
・一方、DCS等組込み型ではない原薬製造設備のコンピュータシステムについては、コンピュータ化システムURSとして分けて作成した方が要求事項を理解・管理し易い場合がある。
・一般的には、設備組込み型ではないコンピュータ化システムのURSは分けて作成することが多いが、以降の活動が容易となるよう、システムの構成・特徴を踏まえてURSを分けるのかまとめるのかを個別に判断すれば良い。
・URS自体は順次追加・修正していくことが可能であることから、制御に関する要件の確定時期が遅れることについては改訂にて対応すれば良い。URSの変更管理を適切に行うことに留意したい。
・なお、システムとして定義する際に、設備のインベントリとコンピュータ化システムのインベントリを整備し纏めることが必要である。
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1. ユーザー要求仕様書(URS)
1-5. URSの作成時期について
製薬会社/サプライヤ間のギャップ等
URSの作成時期はいつが適切か。要求仕様である以上、設計着手前が理想ではあるが、現実的にその時期にURSが承認されることは不可能と思われる。
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製薬会社/サプライヤ間のギャップ等に対する考え方と対応例
・工場建設計画開始時にまとめたユーザー要求概要書(URB(User Requirement Brief))が要求事項をまとめた文書の起点となり、これを基に設計に着手することは可能。
・アネックス15において、URSは設計着手に向けて作成するものではなく、クオリフィケーション活動の起点あるいはリクオリフィケーションの基となる文書としている。よって、URSをどのタイミングで起こすのかではなく、DQ開始時迄に初版が承認されていれば良い。その後のURSの追加・修正は変更管理にて対応する。
・URSは設計と並行して作成を進めればよい。
・URS作成時期についてはコミッショニングを引用するクオリフィケーションの流れについて(例)【C&Q 参考フロー】参照。
・なおアネックス15では、As build(竣工時)の状態でクオリフィケーションが成立していることを起点にリクオリフィケーションしていかなければならないので、DQ/IQ/OQの各フェーズにおいてクオリフィケーションした状態とAs build(竣工時)における状態の比較を行い、As build(竣工時)にてクオリフィケーションされている状態が維持できていることの確認が必要。もしそうでない状態に対しては、逸脱処理を行う必要あり。
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1. ユーザー要求仕様書(URS)
1-6. URSに記載する程度について
製薬会社/サプライヤ間のギャップ等
URSの要求事項の内容はどこまでの程度で記載すれば良いのか。
例1) 接液部の材質
「腐食、吸着、反応しない材質を用いること」といった目的までを示せば良いか。あるいは「SUS316L相当」や「SUS316L」等の仕様までを記載する必要があるか。例2) 温度制御幅
製造上、70℃±2℃でコントロールする必要があれば、この条件を記載すれば良いか。あるいは機器仕様上必要とされる条件、例えば60℃~80℃±1.5℃といった条件を提示する必要があるか。 -
製薬会社/サプライヤ間のギャップ等に対する考え方と対応例
①材質
・URSの表現はクオリフィケーションで検証できる表現であることが必要。
・「SUS316L」の場合、仕様上SUS316Lが選択されれば適合となるが、「腐食、吸着、反応しない材質を用いること」との要求の場合、製薬会社はURSと共に薬液の物性を明確に開示する必要がある。仕様を満たすためにはその薬液に耐性を持つことの証明が必要となる。
・通常、製薬会社は既存で使用されている実績のある材質を指定してURSに記載する場合が多い。②温度制御幅
・開発段階で得られた重要プロセスパラメータ(CPP)にリンクさせることが絶対要件である。開発段階以外で得られたパラメータもある。それらのデータを基にURSに表現する必要がある。
・OQの時に60℃〜80℃±1.5℃、実液製造(PQ)の時に70℃±2℃で制御できる旨記載する。
・開発段階の値を持っていない受託メーカーが設備投資する場合、ある程度経験値として条件の幅を持たせて設定する必要がある。(委託メーカー側は、委託品のCPPを満足する施設かどうかの判断となる) -
1. ユーザー要求仕様書(URS)
1-7. URS要件に対するトレーサビリティについて
製薬会社/サプライヤ間のギャップ等
アネックス15対応では、設備のURSの各要件に対し、仕様書/図面に漏れなく記載され、FAT/SAT/IQ/OQで漏れなく確認されていることの記録(トレーサビリティマトリクス(以下、TM))の作成は必須なのか。製薬会社によってはサプライヤに作成を求める場合と求めない場合がある。
(GAMP5で謳われているCSVの対象ではなく、通常の設備のクオリフィケーションの対象において) -
製薬会社/サプライヤ間のギャップ等に対する考え方と対応例
・TMの作成は、アネックス15の要件ではない。
・TMが有ればURS要件を満たしていることの管理がし易く、査察時の説明にも有効であるが、サプライヤとしては、作成の手間も大きくメンテナンスも困難である。・TMはGMP承認文書ではなく、参考文書としての扱いにするべきである。
・DQにてURSのチェックシートを作成するのだから、それを基にIQ/OQフェーズ以降のTMを作成するのが良い。
・設計初期のURSは完全ではなく、プロジェクトが進んで行く内にURSの完成度が上がる。アネックス15に対応させるには、例えばOQの最後にAs build(竣工時)の図面とURSを照合し、URSとの整合性をレビューすることが対応例として考えられる。運用段階では、そのURSを起点としてAs build(竣工時)の図書を適切に管理すれば良い。
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2. 設計時適格性評価(DQ)
2-1. DQの実施時期について
製薬会社/サプライヤ間のギャップ等
DQはいつまでに実施する必要があるのか。また、下記のどのタイミングが適当か。
①機器発注前(鋼材、電装品の手配開始)
②機器製作・加工前(自主検査実施前)
③出荷前検査(FAT)前
④搬入据付前
⑤IQ開始前(現地検査実施前) -
製薬会社/サプライヤ間のギャップ等に対する考え方と対応例
・DQは、基本的にはIQ開始前迄に行えばよい。
・IQにFAT記録や先行工事(溶接検査や現地天井内配管等に関わる検査)のSAT記録を引用する場合、その引用するFAT・SATの項目・判定基準が、品質リスクアセスメント(QRA)の結果により設定されたIQ項目、OQ項目およびそれらの判定基準と合致している(記録の取り方を含む)、検査要領書・記録書がQAもしくはQAが認定したSME(※)により承認されている(SME(※)はQRAにも関与)、およびこれらの引用条件がVMP等の上位文書により規定されていること、サプライヤアセスメント等によりサプライヤの信頼性が確保できていることにより、DQ実施報告書の承認前にそれらの検査を実施して良いこととする。
・DQ実施時期についてはコミッショニングを引用するクオリフィケーションの流れについて(例)【C&Q 参考フロー】参照。
※ SME(Subject Matter Expert):品質の視点で専門領域の設計やクオリフィケーション/リクオリフィケーションをコントロールできる専門家
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2. 設計時適格性評価(DQ)
2-2. DQ対象の仕様書・図面について
製薬会社/サプライヤ間のギャップ等
DQ対象となる図書(下記参照)は何か。それはどのタイミングで承認されたものか。
・仕様書/図面
・CSVにおいては機能仕様書(FS)/設計仕様書(DS) -
製薬会社/サプライヤ間のギャップ等に対する考え方と対応例
・DQ対象となる図書は、URSの記載レベルに応じて左右されるため、URSの作成に応じて明確になる。
・上記同様、DQ対象図書の作成時期もケースバイケースとなるが、それらの図書が製薬会社に承認されないことにはDQを開始できないので、製薬会社はDQを開始する適切なタイミングで図書を承認する必要がある。DQ対象項目に関する仕様がコメント付きや検討中等の条件付き承認は認められない。
・コンピュータ化システムや制御に関する仕様が確定するのは、設備のプロセス対応の仕様が決まる時期より後になりがちであるため、すべての仕様をまとめてDQを行えない場合がある。その場合、プロセス対応の設計仕様が確定した段階でDQを行い、コンピュータ化システムや制御に関する仕様が最終確定した段階で、二段階に分けてDQを行う。(再DQ)
・効率良くDQを実施する方法として、設計段階で非公式のDQ(デザインレビューやプレDQ等と呼ぶ場合がある)を進めて行く方法もある。
設計とDQを同時並行することで無駄なくプロジェクトを進めることが出来るが、注意点としては、必要なタイミングでQAの介入が必要となることである。・DQ対象図書およびその作成時期についてはコミッショニングを引用するクオリフィケーションの流れについて(例)【C&Q 参考フロー】参照。
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3. 工場における受け入れ検査(FAT)/製造所における受け入れ検査(SAT)
3-1. IQ/OQの根拠としての引用条件について
製薬会社/サプライヤ間のギャップ等
FATにおいては発注者(製薬会社あるいはゼネコンやエンジ会社等)が立ち会い、出荷判断に必要とする検査の全数或いは抜粋にて確認を行う。この場合、確認しない範囲はサプライヤが実施した検査記録を確認して判断する。立ち会いを行わない機器はサプライヤの判断で出荷することになるが、その場合も含め、この出荷前検査記録をIQの判定根拠として良いとする条件は何か。また、サプライヤの社内管理文書となっていることから、記録の提出をサプライヤから拒否される場合はどうするか。
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製薬会社/サプライヤ間のギャップ等に対する考え方と対応例
①FAT(SATを含む)をIQ/OQで引用することについて
・FATの引用条件例
ー引用するFAT・SATの項目・判定基準が、品質リスクアセスメント(以下、QRA)の結果により設定されたIQ項目、OQ項目およびそれらの判定基準と合致していること。(記録の取り方を含む)
ー対象物が現地に据付けられる迄の移送中に、データの信頼性(寸法や材質を含む)が損なわれないこと。
ーFATの検査要領書・記録書がQAもしくはQAが認定したSME(※1)により承認されていること(SME(※1)はQRAにも関与)。
ーサプライヤアセスメント等によりサプライヤの信頼性が確保できていること。
ーこれらの引用条件がVMP等の上流文書により規定されていること・上記に示す引用条件を満たすデータの詳細はFAT要領書の承認段階で明確になるので、IQ/OQの検証内容とFAT引用範囲を踏まえ同書を確認する必要がある。
・FATや先行工事のSAT記録をIQ/OQで引用する際、当該記録の有効性を評価し、有効でない記録については、後続のSAT等やIQ/OQで検証する必要がある。
②サプライヤ自主検査のIQへの引用要否
・原則、製薬会社の立ち会いがないサプライヤで実施した自主検査記録を直接IQ/OQに引用することは出来ない(※2)。ただし、自主検査の内容に関して品質リスクアセスメントを事前に行い、品質リスクが受容水準にあれば、その記録を製薬会社がレビューすることでIQ/OQの判定根拠としての引用を可能とする。③サプライヤが社内管理文書扱いとして文書を提出不可とする場合があることについて
・文書を社外秘として開示出来ない場合は、その企業のルールに応じる必要があるため、IQ/OQで引用することは出来ない。文書の提出可否を事前に確認し、代替文書等での引用を考慮する必要がある。
・例えば、CSVの領域でカテゴリ3の標準化されているユニット機器においては、ソースコード等については社内機密文書扱いで提出不可という場合がある。その場合はFATの段階以前に供給者監査等にて確認することで対応する。※1 SME(Subject Matter Expert):品質の視点で専門領域の設計やクオリフィケーション/リクオリフィケーションをコントロールできる専門家
※2 PI-006-3(Recommendation on Validation Master Plan, Installation and Operational Qualification)にて、引用出来ないことが明記されている(5.3.4)。 -
3. 工場における受け入れ検査(FAT)/製造所における受け入れ検査(SAT)
3-2. 記録の作成ルールについて
製薬会社/サプライヤ間のギャップ等
日付記載方法、空欄処理、サイン登録、ペンの色等の記録の作成ルールは製薬会社によっては非常に細かく規定されているが、サプライヤには見積段階で開示されることは殆どない。また、その対応は一次のサプライヤのみならず、場合により二次三次以降の会社の記録まで必要となる。サプライヤは対応が後手になると、文書の作成負荷が増大する。IQ/OQの根拠資料として引用されるSAT/FAT記録等、サプライヤが提供する記録がGMP記録として扱われる場合、文書作成の受容できるレベルとはどの程度なのか。
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製薬会社/サプライヤ間のギャップ等に対する考え方と対応例
①原本の取り扱い等について
・文書は、原紙の取扱いが重要である。
クオリフィケーション担当者は以前、文書を丁寧に分かりやすく記録するために、メモを転記するケースが見受けられた。DIが適用されて以降は、これは生データでは無いため、原本としての慎重な取り扱いに留意することとなった。
・社内文書に対しても、最初に書いた文書(原本)を提出する様に教育する。
製薬会社に原本を提出し、必要な場合は、そのコピーを持つ。・製薬会社側より、「社内で作成した文書には、承認されたら改ざん防止のために穴を開けることになっている。報告時はその要領書の承認版(穴あきの原紙)のコピーに記録をしてもらうことになる」
・ 現在は、ALCOAが原則となるため、真正コピーの扱いやタイムスケジュールを含めて考慮し、VMP等の作成段階で扱いを明確にし、関連業者を含め指導して行く必要がある。
②製薬会社のDIルールの適用に関して
・DIルールの適用は、スケジュールと見積りに大きな影響が有るので、見積りの段階で適用される条件(文書の範囲、内容、グレード等)が明らかにされれば、サプライヤとして適切に対応出来る。
ただし、明示されるタイミングがFATの段階であったりすると、対応は困難になる。
上記条件に関して、例えば、溶接実施の日時記載等になると、二次、三次以降のサプライヤに関しては、適用が困難なケースも出てくる。・サプライヤとしては、スケジュールと見積りに影響する内容は早い段階で明示して欲しい。但し、ある程度想定出来る内容を盛り込んで見積ると、どうしても高額になりうる。
・サプライヤ標準の書類を製薬会社に提示して、品質リスクアセスメントから許容範囲か否かの判断をする等、DI適用の範囲と程度を絞って行く積み重ねが必要。③製薬会社のDIルールの提示に関して
・製薬会社も、DIは当たり前のスタンスではなく、サプライヤにルールを明示する必要がある。
・例えば、FATは必ずしも全てGMP文書ではないし、第1種圧力容器の書類もGMP文書ではないので、「DI規定の適用はGMP文書に限る」とURS等に明記することが望まれる。
・製薬会社の関係基準書類をサプライヤに開示して貰い、サプライヤは問題になるところは対照表等を作って解釈を書き、製薬会社の承認を受けてから実施する方法も有る。 -
4. 設備据付時適格性評価 (IQ)/運転時適格性評価(OQ)
4-1. IQとOQをまとめる計画とする条件について
製薬会社/サプライヤ間のギャップ等
ある製薬会社では、ユニット機器等の標準品について、検査の内容、手順(検査の順序も含む)、判定基準等が標準化され、手順通りに行えば、当該機器の機能や性能が担保されるようなリスクの低い機器のみをIOQ一体化の対象としている。また、一部の製薬会社では、IOQとして一体化することを認めていない。IQとOQが分けられていると、IQ報告書がQA承認されなければOQに移行できないため、工事の工程にロスが生じるため、サプライヤとしてはIOQの一体化を極力望む。
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製薬会社/サプライヤ間のギャップ等に対する考え方と対応例
①IOQとして一体化出来ない条件
・原薬の場合、OQの段階では有機溶媒を使っての運転となることが多く、サプライヤが危険物を使って運転することは難しいため、IQとOQは分けざるを得ない。
・また、原薬の場合はIQの文書化単位とOQの文書化単位が1対1とならないため、IQとOQを合わせて文書化することは困難。
・ユーティリティや空調システム等では、期間、時間を決めて施工が行われるため、IQとOQを分けて文書化した方が工程上/効率上、やり易いケースがある。②IOQとして一体化出来る条件
・前提として、IQとOQを一体で行うことやFAT/SATをIQ/OQの根拠として引用することをVMP等の上位文書にて規定しておく必要がある。
・ユニット機器等、検査の内容や判定基準等が標準化されている機器はIOQとして一体化する。
・工程上/効率上、据付時のSAT検査と運転時のSAT検査を分けることになったとしても、それらを参照してクオリフィケーションの計画を立てる上ではIOQとして一体化が可能。
・IOQとして一体とした場合、然るべき順序(据付時と運転時のフェーズ間の順序のみならず、据付時の検査の中でも守るべき順番がある)で検査が行われ、適切に変更管理・逸脱管理が行われること。 -
4. 設備据付時適格性評価 (IQ)/運転時適格性評価(OQ)
4-2. IQ着手のタイミングと参照する仕様書・図面の関係について
製薬会社/サプライヤ間のギャップ等
SAT(IQ/OQに引用される現地検査に該当。以降、SATと表現)着手のタイミングとIQ計画書/SAT要領書、仕様書/図面の関係の考え方がプロジェクトによって異なる。仕様書/図面の発行タイミングやDQ実施のタイミングも合わせて適切な流れを考察する。
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製薬会社/サプライヤ間のギャップ等に対する考え方と対応例
①SAT着手のタイミング
・SATの着手のタイミングは以下のケースにより考え方が変わる。(いずれのケースもFAT/SAT要領書はQAあるいはQAに認められたSME(※)により承認されることを前提)
1)対象が分析装置(カテゴリー3と言われるパッケージ化されているもの)等でFATを実施しない機器
→納入前に承認された図面を対象としてDQ完了後にSAT開始
2)充填機等FATを介して現地搬入後、設置工事を行う機器
DQをFAT前に完了する場合
→FATにより発生した変更を仕様書/図面に反映し、据付時SAT開始
(ただし、既に完了したDQに対する変更/逸脱管理を行い、影響評価の上然るべき措置を行う。場合により再DQの実施。)
DQをFAT後に実施する場合
→DQはFAT結果を反映した仕様書/図面に対して実施し、DQ完了後、据付時SAT開始
3)製薬用水のように先行工事(溶接や天井裏等の隠蔽部の配管他)があり、本体機器はFATを介して現地搬入後、設置工事を行う設備
→先行工事は据付前に承認された図面を対象として(DQ前に)SAT開始
DQを本体機器のFAT前に完了する場合
→本体工事は、FATにより発生した変更を仕様書/図面に反映し、SAT開始
(ただし、既に完了したDQに対する変更/逸脱管理を行い、影響評価の上然るべき措置を行う。場合により再DQの実施。)
DQを本体機器のFAT後に実施する場合
→本体工事は、本体機器のFAT結果を反映した仕様書に対してDQを実施し、DQ完了後、据付時SAT開始②DQをFAT前に完了する場合の補足
・FATの記録をIQ/OQで引用することが決まっていれば、FATの前迄にDQを完了しておきたい。しかし現実は仕様書/図面の承認がFAT直前まで掛かったり、FAT後にDQを実施したとしてもIQまでの短期間の間でDQを終わらせなければならない。
・URS(DQ)をなるべく簡素化(クリティカルな要件のみ)とすれば、FATの結果、変更があったとしても、クリティカルな要件に影響するようなことは少ないので、URS(DQ)の改訂はせず変更管理の中の影響評価までに留まる可能性がある。
・仕様書/図面を変更した際は、それがURSやDQ報告書,IQ/OQ計画書に影響を与えるか否かについてレビューしなければならない。変更内容の大小に関わらず、仕様書/図面改訂時の本レビューは100%必要である。
・例えば、DQで使用した設計図書に対し、IQで使用する設計図書が改訂となった場合は、IQ報告書の中で改訂されたことを記録すると共に、影響評価の結果を報告する方法もある。
・他に仕様書/図面の変更履歴を管理するフォーマット(シート)を別途作成し、変更内容やクオリフィケーションへの影響評価の有無を記載してQAに承認をとって進める運用もあり。仕様書/図面改訂毎に発行する。
・DQの参照とする仕様書/図面は、あらゆる製作図を対象とする訳ではなく、最低限URSを確認出来る図面(機器仕様書(納入機器の概要、構成、能力、機能、基本仕様、概略図等が記載された仕様書)、P&IDくらい)となれば、他の製作図等の変更はURSやDQに影響することはないと考える。それらの製作図はSATの開始までに承認されていれば良いという考えもある。(DQ対象図書以外もIQ/OQの対象図書とすることができる)③DQをFAT後に実施する場合の補足
・DQ実施後から変更・逸脱の文書管理が始まるため、FAT前にDQを実施すると変更・逸脱が大量に発生する可能性がある。そのためゼネコンやエンジ会社の場合、契約下のサプライヤが10社も20社もある場合があるので、DQはFAT時に発生した変更を反映した仕様書/図面に対して実施したいだろう。
・FAT前に非公式のDQ(デザインレビューやプレDQ等と呼ぶ場合がある)を行い、FATの中で発覚したおかしいところ(差分)を図面上で修正し、最終的にDQを実施する方法もある。(必要なタイミングでQAの介入が必要となることである )④コミッショニングとクオリフィケーションとの関係
・IQ/OQの省力化に加え、先行工事等によるクオリフィケーションフェーズ間の時系列に対する不整合を解決するため、SATやFATのコミッショニングの記録を引用することでIQ/OQの計画書を構成する方法が有効になる。クオリフィケーションに引用されるコミッショニング書類は、GDP(Good Documentation Practice)で作成され、適切に管理される必要がある。製薬会社は、品質リスクアセスメントを行い、品質リスクが受容水準にあれば、コミッショニング書類をIQ/OQに引用できる。
・コミッショニング文書とクオリフィケーション文書の相関関係についてはコミッショニングを引用するクオリフィケーションの流れについて(例)【C&Q 参考フロー】参照。
・以上のようなコミッショニングとクオリフィケーションの流れの考え方について、プロジェクトの早期に関係各社同意をとり、工程表に落し込む必要がある。※ SME(Subject Matter Expert):品質の視点で専門領域の設計やクオリフィケーション/リクオリフィケーションをコントロールできる専門家
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4. 設備据付時適格性評価 (IQ)/運転時適格性評価(OQ)
4-3. IQからOQへの移行について
製薬会社/サプライヤ間のギャップ等
IQからOQへの移行時、IQ項目の残項目があっても、それに影響を受けないOQ項目の着手を許可する運用ルールの適用は有りか無しか。
例えばIQ時、あるバルブ選定に不備があり、正規のものへ交換を要することになったが、納期が非常に掛かる状況。なお、そのバルブに関わるところ以外のIQ項目は完了し全て適合となっている。このバルブ交換に一切影響なく、実施可能なOQ項目がある場合は影響評価の上、OQへ移行して着手可とする運用を想定。 -
製薬会社/サプライヤ間のギャップ等に対する考え方と対応例
・VMP等に予めこのルールを規定することで、適用可能と考える。
・ただし、IQの残項目およびその影響範囲を明確にすること、および同残項目がOQ実施項目に影響を与えないことを明確にすることが必要である。
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4. 設備据付時適格性評価 (IQ)/運転時適格性評価(OQ)
4-4. 検査対象となる仕様書・図面の変更について
製薬会社/サプライヤ間のギャップ等
FATやSAT実施段階にてサプライヤが無断で図面を社内改訂し、その図面を検査図面として検査を実施していた。ただし、図面の改訂内容は品質に影響を与えることのない変更(例えば、平面図上に記載された制御盤寸法の変更等)であった。対応として以下のどれが適切か。
対応A:どんな変更であれ、改訂された図面の承認を取り直してから、改めて検査をやり直す。
対応B:品質に影響しないノンクリティカルな変更であろうとなかろうと、図面の改訂内容を確認・影響評価し、この度の影響評価結果、措置内容等を変更/逸脱報告に挙げ、承認ののち措置対応する。(変更・逸脱時の運用はVMP等で規定)
対応C:ノンクリティカルな細かい変更は切りがないので、クリティカルな変更がなければIQの報告時(報告書)にまとめて報告する。(クリティカルな変更があった場合のみ、B.のように変更/逸脱報告する) -
製薬会社/サプライヤ間のギャップ等に対する考え方と対応例
・未承認の図面での検査記録はクオリファイ状態を確保できないためIQ/OQに引用できない。その検査記録をIQ/OQに引用する場合は、変更/逸脱管理をする必要がある。(対応Bの考え方)
・ノンクリティカルな変更であっても、図面改訂時の変更管理は必要となる。4-2.で挙げた「仕様書/図面の変更履歴を管理するフォーマット(シート)」を起こして変更管理する方法もある。
(構造設備導入時のプロジェクトでは、GMP規定の変更/逸脱管理ではなくコミッショニングプラン(GEP)のルールで処置する場合もあるので要注意)・クオリフィケーションに引用したい図面類の変更は、変更管理の上、必要に応じて再検査を実施する。(対応A)
・DQを含むクオリフィケーションに引用しない図面類の変更は、コミッショニングプランの中の変更管理で対応する。
・サプライヤによる無断での図面の社内改訂が無いように、事前にクオリフィケーション活動に関する教育・指導を実施する。
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5. Data Integrity(DI)
5-1. 記録の同時性について
製薬会社/サプライヤ間のギャップ等
クオリフィケーションの記録において、ALCOA要件にある「記録の同時性」について、実際にどの様に確保しているのか、また、それをどのように検証しているのか。
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製薬会社/サプライヤ間のギャップ等に対する考え方と対応例
①記録の取り方
・クオリフィケーションの記録は、目視で確認し、紙に記録する場合が多い。
・手書きの場合、その場での記録が原則である。
・例えば、記録書式に確認方法(手順)を予め記載し、確認者が手順に従って結果を記録(同時に日付を記入・サイン)する。
・以前は、その場で取った記録をメモとし、事務所にこれを持ち帰り転記することがよく行われていたが、DI対応ではこの対応は薦めない。
・どうしてもメモを作らざるを得ないのなら予めルール化した上で、当該メモを捨てずに原本として記録に付ける。
また、メモと記録を紐付けし、いずれも同じ者が承認する。②同時性の確保
・手書きの場合、「その場で書く」ことだけをルールとしている場合、後で記録を見ても同時性は確認出来ず、「信用するだけ」となり、同時性の確保は難しい。
・IQ/OQの記録を製薬会社とサプライヤが一緒に行うことで、ある面、記録の同時性を確保していることの確認が可能となる。
・手書きでの同時性の確保が出来ないとなると、機械での自動記録に頼るしか無くなる。
・現場にカメラ等の持ち込みが出来れば撮影も出来るが、クリーンルーム内では禁止される場合も多い。
・カメラ等の持込みが可能であれば、これらでリアルタイムにモニター・記録することで同時性を確保することが出来る。(ただし、その映像は、現場の状況をただデジタルで見せているだけという説明にしかならない。) -
5. Data Integrity(DI)
5-2. 画像記録の完全性の確保について
製薬会社/サプライヤ間のギャップ等
クオリフィケーションの記録に写真や動画を用いることがあるが、それらの記録のデータインテグリティの確保はどの様にすべきか。データのオリジナルを残すという要件に対し、どこまで対応すべきか。
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製薬会社/サプライヤ間のギャップ等に対する考え方と対応例
・記録のための証拠写真や動画は、その時の状況を後々見ることができるだけの位置付けでしかなく、生データとしては、無理がある。
・製造プロセスの状態を示すためにその画像をPDF化したものは、オリジナルではない。
・写真は、何がオリジナルとなるのかその定義が難しく、その時その場で印刷することは出来ないため、電子記録になってしまう。
しかし、データを保管するコンピュータ(サーバ)は、必ずしもDIの確保が検証されている訳ではない。・画像データについては、時刻記録が取れるが、容易に変更が可能である。
また、画像自身のフィルタリングも可能である。・画像に映り込んでいる正確性と、その情報の同時性は別の話となる。
撮影環境が適切であり、SOPに基づき教育を受けた者により撮影が行われることで、データの改ざん性が無いものとして説明するしかない。・基本的に、写真データはIQ/OQの参考情報と言う扱いでしかない。
実際の記録は、目視で確認しその結果を記録書に書いたものとなる。
写真データは、記録した時の状況を説明するための補足情報として付けるだけなので、バリデートする必要は無いとする考え方はある。 -
5. Data Integrity(DI)
5-3. 記録の完全性確保のための確認方法について
製薬会社/サプライヤ間のギャップ等
クオリフィケーション業務に組み込むデータインテグリティ確保のためのチェックはどの様にしているのか。
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製薬会社/サプライヤ間のギャップ等に対する考え方と対応例
①DI確保の方法
・例えば、キャリブレーションを実施する場合、記録用紙(クリーン紙)を持参し現場に入り、現地でデータを記入することがある。・事務所に戻って 転記するようなことをしないよう、事前に教育を行う。
・正式な記録書は1枚しか発行できないよう印刷発行管理ができれば良いが、そこまでは管理していない状況もある。
・パソコンを現場に持ち込み、直接入力すること方法もあるが、持込みが制限される場合も多い。
・記録書の書き方について、要領書にDIに関するルールを規定することが必要である。
・鉛筆、消えるペンの使用禁止
・日付(、時刻)の書き方
・記録訂正方法
・空欄処理
・メモを持ち帰っての転記の禁止
(やむを得ない場合は、予め規定した上で、メモは報告書と紐づける)、等・検証時の逸脱に対し、起こりそうな不具合とその重大性(マイナー、メジャー)の基準を計画書に明記し、その対処方法も規定の上、承認を得るような方法もある。
この場合、検査の着手前にこれらに関する教育を行うことも必要である。②DCSのループチェックのDI確保例
・ループチェックは、計器室で出力を操作し、機器がきちんと動作するか、アンサーがきちんと戻って来るかを確認する場合がある。
機器動作は現場で確認し、アンサーは計器室で確認するため、記録は現場と計器室の2カ所(2名)で別々に作成する。
別々に記録を作成するため、記録紙は2つ(機器動作とアンサーが)出来ることになる。・トランシーバ等を用いた伝言によりアンサーを記録することがある。
このような伝言は、例えば、バルブA、Bがテレコになっている様な場合、現場の確認者がバルブAとバルブBの動作情報を間違って伝えることが想定される。・事前に、配線チェック、コンピュータ単独でのチェック(I/Oチェックを含む)等を実施し確認する。
・テストツールの適格性確認(この場合は、運転操作画面等が該当)は、最初に、全ての機能(要素)をFATで確認する。
これは、突き詰めて行くとFATの業務量が膨大になるが、見方を変えると、準備を万全にすることで不具合が発生する要因を減らすことになり、後(現場搬入後)での不具合は、圧倒的に少なくなる。
ただ、FATには、ある程度時間が掛かる。