Vol.33 No.3 (2024)
研究・技術の解説
医薬品製剤のトレーサビリティについて:表面増強ラマン散乱を用いたマイクロタガント技術によるOn-Dose Authentication の紹介
安永 峻也、山口 明啓、福岡 隆夫
【要旨】
流通網が複雑化する中、医薬品製剤が「いつ、どこで、どのように、誰によって」製造され、流通し、消費されているのかを可視化するトレーサビリティの確保が求められている。近年、個別の医薬品製剤を識別するOn-Dose Authentication(ODA)が注目されており、肉眼で識別困難なタグを医薬品製剤に直接付与するマイクロタガント技術の開発が盛んに行われている。本稿では、既存のトレーサビリティシステムとODA 技術を比較し、これまでに著者らが取り組んでいる表面増強ラマン散乱を利用したマイクロタガント技術のODA への応用について解説する。
【Abstract】
In the midst of increasingly complex distribution networks, there is a demand for ensuring the traceability of pharmaceutical formulations, to visualize “when, where, how, and by whom” they are manufactured, distributed, and consumed. In recent years, On-Dose Authentication (ODA) has gained attention for identifying individual pharmaceutical formulations, and there is active development in the technology of microtaggants, which involves attaching tags to pharmaceutical formulations that are difficult to identify with the naked eye. This manuscript compares existing traceability systems with ODA technology and discusses the application of microtaggant technology using surface-enhanced Raman scattering (SERS) to ODA.
取り巻く話題
落合 康
【要旨】
デジタルテクノロジーの進展は著しく、ヘルスケアの分野においても、治療アプリの登場、VR を活用したリハビリテーションの普及、AI 搭載医療機器の可能性拡大、スマートフォンを活用したモバイルヘルスの進展、ロボットやアバターを活用した治療の開発、ゲームのヘルスケアへの応用、Brain Machine Interface の研究活発化など、多様なソリューションが登場しつつある。この潮流は個々の企業活動にとどまらず、国家、ひいては国をまたいだデジタルヘルスの取り組みも加速している。こうした動きの背景には、社会的な課題として少子高齢化、経済の低迷と医療費を筆頭とする社会保障費の急激な増大、医療アクセス格差、医療の質の維持・向上、医療・介護の担い手不足がある。ファーマである当社は自らの強みと明確なビジョンのもと、様々なアセットに取り組んできたが、その中でデジタルヘルスケアとの接点が必ずしも多くない製剤研究者であったことが意外にも強みになりうるということを紹介する。
林 健太朗、田中 良介
【要旨】
2023 年5 月、ICH 調和ガイドラインQ13「原薬及び製剤の連続生産」が通知された。本ガイドラインでは、医薬品の連続生産に関する科学的および規制上の考慮すべき点がまとめられている。本ガイドラインの制定によりレギュレーションが明確化されつつあることと、FDA が連続生産を奨励していることもあり、外資系、内資系メーカー問わず、多くの企業が連続生産を導入し、承認事例が報告されるようになってきた。本稿では、連続生産の概念やメリットなど、原薬および製剤の連続生産について概説しつつ、滞留時間分布モデルや多変量統計的プロセス管理を用いた管理戦略、AI などを駆使したデータサイエンスとの融合の展望など、シオノギファーマ株式会社で取り組んでいる連続生産の技術開発の取り組みについて紹介する。
利益相反の基本的な理解に向け
− COI(利益相反)そのものについての理解−
花輪 正明
【要旨】
科学技術の進歩は目覚しく、その発展は人類の生活向上にはなくてはならない。特に医学、薬学の分野では科学技術の進歩は直接多くの疾病を有する患者の治療に貢献し、患者の保健衛生上の観点からも極めて重要なことである。医薬品が患者に使用できるようになるためには、厚生労働大臣による製造販売承認が必要で、その開発、製品化に向けては産学連携が必須となる。しかし、産学連携が盛んになればなるほど、公的な存在である研究機関および医療機関などの研究者・医療関係者と、特定の企業との間に経済的関りができ、その結果、研究成果などにバイアスがかかるのではないかとの「利益相反」が問題となることがある。利益相反そのものは研究者や医療関係者側の問題であるが、特に生命関連企業として患者の生命に大きくかかわる医薬品などに関わる産業においては、他の産業以上に透明性と公平性が担保されなければならない。そのため、医薬品を供給する産業側も「利益相反」を正しく認識し、適切な対応が求められる。
槙野 正、石原 俊博、谷野 忠嗣
【要旨】
関西には古井戸の会と称する交流会があり、医薬品生産に関係する、製薬企業、医薬品添加剤企業、製剤機械企業、原材料企業、環境衛生関連企業そしてアカデミアの方々等が一堂に会して交流し、それぞれの現況、新規知見、過去から現在に至るまでの実績など多方面の情報交換が活発に行われている。参加者は産学の著名な方々を交えて様々であり、普段なら話をするのも憚られるような方々とも気軽に話ができるという他に類をみない特長を有する会である。年に2 回開催していたが、新型コロナの影響でしばらく開催できていなかった。しかしその再開を望む声が強く、2023 年の7 月からようやく再開できて、今後も従来同様に年2 回の開催を行っていく予定である。そこで今回、当会の詳細を紹介してみたい。
工場(研究所)紹介
福田 誠人
【要旨】
岩城製薬佐倉工場株式会社では、2023 年に開発初期・中期・後期の治験薬から商用までの溶液注射剤の新製造ラインを稼働した。この新ラインでは、封じ込め設備の導入により、高薬理活性の医薬品製造が可能になった。さらにアステナグループに属するスペラファーマ株式会社との連携・機能強化により、注射剤の処方設計から製造および試験分析、試験法開発に至るまで、シームレスなCDMO(Contract Development and Manufacturing Organization)サービスの提供を可能にするものである。本施設は日米欧三極GMP、PIC/S に対応しているほか、FDA 21CFR Part11 をはじめとするデータインテグリティにも対応しており、日米欧のグローバル市場への製品供給をサポートすることができる。本稿では、岩城製薬佐倉工場の新ラインの紹介を中心にアステナグループが提供するシームレスなCDMO サービスについても紹介する。
岸本 展明
長友 章文
研修会報告
- 第21期 固形製剤教育研修会
第8 回 「固形製剤工場の設計とエンジニアリング」 (近本 聡史) - 第18期 無菌製剤教育研修会
第5 回 「無菌製剤製造設備設計の基本及び実習」 (遠藤 貴史)
