Vol.33 No.2 (2024)

研究・技術の解説

AJICAP® 第二世代法による位置選択的な抗体薬物複合体のスケールアップ合成

渡部 友博、藤井 友博

【要旨】

免疫グロブリンG(IgG)Fc 親和性試薬を利用した化学的手法による位置選択的コンジュゲーション技術は、次世代の抗体薬物複合体(Antibody-Drug Conjugate:ADC)を調製するための汎用性の高い手法である。我々の研究グループは最近、AJICAP® 第二世代法と呼ばれるFc 親和性ペプチドを介したコンジュゲーション法を報告した。本手法は第一世代法と比較して試薬の安定性向上、およびADC 調製時の酸化還元工程の回避を可能とし、低凝集率かつ高効率にて位置選択的ADC を調製することを可能とした。今回、AJICAP® 第二世代法の汎用性を示すため、種々反応条件下での検討、反応中間体の安定性およびグラムスケールでの製造を行った。その結果、AJICAP® 第二世代法がADC 製造において堅牢で実用的な手法であることが示されたので報告する。

【Abstract】
Chemical site-specific conjugation technology utilizing immunoglobulin-G (IgG) Fc-affinity reagents is a versatile and promising tool for producing next-generation antibody-drug conjugates (ADCs). Our research group recently reported a novel Fc-affinity peptide-mediated conjugation method, termed AJICAP® second-generation. This technology, based on thioester chemistry, produces site-specific ADCs with low aggregation and high yield. Herein, we report further investigations into the AJICAP® secondgeneration technology. By varying the parameters of the peptide conjugation step, it was found that this reaction is feasible under a wide range of reaction conditions. Moreover, ADCs were synthesized at various scales, and it was verified that the DAR and aggregation rates could be replicated consistently across different scales. The results strongly indicate that the AJICAP® second-generation process is a robust and practical approach for the manufacture of ADCs.


非晶質固体分散体製剤の数理モデルを用いた溶出挙動の解析

平井 大貴

【要旨】

薬物の準安定形結晶や非晶質は、安定形結晶と比較し高い溶解性を示すことから、難溶性薬物の溶解性改善に利用されている。一方でそれらの製剤の溶出特性の定量的な評価は困難である。そこで、本研究では準安定形結晶や非晶質の溶解過程を解析するために、飽和層- 拡散層境界面での界面反応を伴う溶解現象を表現する数理モデルを構築した。さらに、構築したモデルで複数種類の非晶質固体分散体 (ASD) の溶出特性の解析を試みた。ASD の溶出挙動へのモデルフィッティングの結果、いずれのASD でも理論値と溶出挙動の実測値はよく一致した。また、理論上の溶解度や結晶析出速度定数といったパラメータをモデルフィッティングにより算出し、ASD の溶出特性を定量的に評価できることが示された。以上より本モデルはASD の溶出挙動解析に有用であり、ASD をはじめとした準安定形結晶、非晶質製剤の設計や評価への応用が期待できることが示された。

【Abstract】
Metastable crystal and amorphous have the higher solubility than stable crystal and are used for improving the solubility of poorly-soluble drug. On the other hand, it is difficult to analyze these dissolution characteristics quantitatively. Thus, for analyzing these dissolution process, we developed a novel mathematical model which represented the interfacial reaction between saturated and diffuse layers in this study. In addition, we analyzed the actual dissolution behaviors of multiple amorphous solid dispersion (ASD) by using the model. The theoretical values of the developed mathematical model had a good corresponding to the experimental values of the dissolution behavior for all ASDs. Moreover, it was shown that this model made it possible to analyze the dissolution characteristics of ASD quantitatively by deriving the theoretical solubility, crystal precipitation rate constant, and so on. From the above, this model is useful to analyze the dissolution behavior of ASD, and it is expected to apply the formulation design and evaluation of metastable crystal and amorphous, such as ASD.

取り巻く話題

患者の服薬コンプライアンス向上を目的とした医療機関および患者向け資材開発の実際

松田 和貴

【要旨】

高田製薬の研究開発部所属中に、2007 年10 月厚生労働省より「後発医薬品の安心使用促進アクションプログラム」が公表され、プログラムの1 つである情報の充実を図るために学術課に転身した。その中で、医療機関から要望や相談を受ける機会が増え、「情報提供で医療機関の困りごとを解決する」を目標に掲げるようになった。

以下、4 人の先生と4 つの資材について、先生と出会いのきっかけや資料作成の背景とともに、私の想いをのせて紹介する。1.松本 康弘 先生と「2 歳までの子どもの薬の飲ませ方」、2.山本 佳久 先生と「ペースト法」3.大黒 幸恵 先生と「薬の保管方法」、4.上荷 裕広 先生と「点鼻薬の動画指導箋」。今後も患者アドヒアランス向上を目指した資材作成をし、治療や健康維持の一助になるよう努めたい。また、そのために実際に患者と向き合っている医療機関からのニーズと成功体験を世に広める活動を継続して行っていきたい。


薬がない!〜2020 年代前半、薬が手に入らない〜

富野 浩充

【要旨】

2020 年代に入ってから、毎日何かしらの薬が不足している。メーカーからは出荷制限の通知が連日発信され、現場の薬剤師たちは医薬品の手配に今までの数倍もの時間と経費を取られている。卸に注文しても断られ、代替薬も出荷制限がかかり、医師と患者の間で板挟みの日々である。今回、どのような理由で出荷制限がかかるのか、現場の薬剤師たちはどこに原因があると見ているのか、執筆のために取ったアンケートとともに、薬剤師の現状を紹介する。


注射製剤開発のCMC 申請資料(CTD M3)の記載事例と留意点

無菌製剤委員会、CTD 分科会

【要旨】

医薬品開発の難易度が上がり、製剤研究者が一つの企業在籍中に、設計・開発した製剤を承認申請に至るまでの経験をする機会が減少している実情を踏まえて、無菌注射製剤(化学薬品製剤および生物学的製剤等)のCTDModule3 の記載事例と留意点について述べる。承認申請に向けて製剤研究者が係わるCMC 業務の事例を紹介し、各製薬企業の若手製剤研究者が承認申請書作成に取り組む際に申請書に記載すべきデータを把握するための、参考資料の1 つとなることを目的とする。CMC の基本作成パートはModule3 であり、本稿では、製剤研究者が作成を担当するセクションの記載事例に関して紹介する。

製剤機械等の紹介

微生物汚染リスクモニタリングシステム 「ELESTA® PixeeMo®」の紹介

円城寺 隆治

【要旨】

当社は2013 年の創立以来、誘電泳動原理による電気計測、マイクロ流体制御および画像解析の各技術を融合した微粒子ろ過技術「AMATAR®」の研究開発をコア業務としている。2020 年にはAMATAR® を搭載した微生物汚染リスクモニタリングシステム「ELESTA® PixeeMo®」を上市した。現在、本システムは食品飲料および化粧品に対する微生物検査市場中心に販売されている。本システムを製造工程管理に導入することによって、製造ラインまたは製品中に混入する微生物を迅速かつ定量評価できることから、安全・安心な状態での製品出荷および微生物混入事故による製品回収リスクの低減に貢献している。最近では、医薬品原薬中の微生物検査法としての導入について、製薬企業で基礎検証が実施されている。本報では、ELESTA® PixeeMo® の特徴および計測性能を紹介するほか、医薬品製造現場・バイオものづくり領域における当システム活用に向けての将来的な取り組みについて詳述する。


ヒュットリン・ボトムスプレー式流動層造粒設備の特長

吉村 昭彦

【要旨】

湿式造粒法において、流動層による造粒は、広く確立された技術であるが、品質要求や、作業時間・コスト削減など、製剤における要求は年々高まっている。当社は注射製剤分野やカプセル充填機などにおいて長年にわたり製薬業界に携わってきたが、本稿では高能力の流動層設備を紹介する。2011 年より当グループに加入したヒュットリンは造粒や顆粒コーティング技術に特化した集団であり、高い装置開発力を持っている。ヒュットリン流動層が持つ独
自の技術であるDiskjet や3 流体ノズル、ボトムスプレーの特長、さらに既存の技術と比べて、処理速度や製品品質、スケールアップなどにおいて、どのような利点があるのかを紹介する。また最後に装置のランナップやオプションについて紹介する。


透過ラマン分光法の有用性の評価 錠剤、カプセル分析事例

久田 浩史、廣瀬 侑太郎、丸嶋 利嗣、山田 凌也、深水 啓朗

【要旨】

本研究では、コーティングを施した市販薬や原料の異なるカプセルに原薬を充填したカプセルをモデル製剤とし、透過ユニットを接続した市販のラマン分光計を用いれば、錠剤のコーティングやカプセル材質による表面干渉を軽減し成分を分析・評価することが可能なことを明らかにした。

工場(研究所)紹介

新規発足した“Meiji Seika ファルマテック株式会社”のご紹介

近勢 茂

【要旨】

Meiji Seika ファルマは、1946 年に抗生物質であるペニシリンの製造・研究を開始し、1950 年に「ストレプトマイシン」、1958 年に「カナマイシン」、1993 年に「メイアクト」と全身性抗菌薬を開発、製造、販売してきた明治製菓株式会社と乳製品を製造、販売してきた明治乳業株式会社が2009 年に経営統合し、2011 年に薬品事業会社として発足した。上記の抗生物質だけでなく、「メイラックス」や「デプロメール」などの中枢神経系領域の医薬品も充実させる一方で、1998 年にジェネリック医薬品領域に参入した。Meiji Seika ファルマ発足当時は国内に原薬2 工場(北上、岐阜)、製剤1 工場(小田原)、海外に4 工場(中国、タイ、インドネシア、スペイン)を有しており、2015 年にインドのメドライクLtd. を子会社化してきた。小田原工場は無菌注射製剤を主力製品として稼働していたが、2004 年に経口固形製剤の主力工場であった淀川工場と統合し、グループ国内唯一の製剤工場として稼働を続けてきた。そして、2022 年12 月に今以上に高い自律性と専門性を有する医薬品製造会社として、小田原工場からMeiji Seika ファルマテック株式会社として新たに発足し、2023 年4 月より稼働を開始した。新会社発足により、これまではMeiji Seika ファルマ品目の生産が中心であったが、CMO 品の受託も本格的に開始することとなり、業務範囲を拡大している。今回は、当社の概要について紹介する。

海外だより

日本での私の経験

ヴァサンティ・パラニサミー

研修会報告

教育委員会に参加して

  • 第21 期 固形製剤教育研修会
    第5 回 「打錠機の構造と打錠障害」(角田 琴美)
  • 第21 期 固形製剤教育研修会
    第6 回 「コーティング操作および装置の解説および技術動向」(渡邊 越百)
  • 第21 期 固形製剤教育研修会
    第7 回 「医薬品包装の基礎知識と機械操作」および特別講演会(角田 琴美)
  • 第21 期 固形製剤教育研修会
    第5 回 「打錠機の構造と打錠障害」(岩城 巧)
  • 第18期 無菌製剤教育研修会
    第3 回 「液剤検査装置・充填機の基本性能」
    第4 回 「凍結乾燥の基礎技術とバリデーション」(植月 勇貴)
  • 第16期 半固形製剤教育研修会
    第3 回 「経皮吸収の基礎と活用、貼付剤の製剤設計、半固形製剤の安全(鷺 敬明)
  • 第16期 半固形製剤教育研修会
    第4 回 「半固形製剤の設計と開発、高速撹拌機を用いた分散と溶解、半固形製剤製造で使用する機械の設置に関する基礎」(高橋 正)
  • 第16期 半固形製剤教育研修会
    第5 回 「半固形製剤の外用容器と要求機能、スケールアップの考え方、半固形製剤工場におけるエンジニアリング」(米屋 圭祐)