Vol.34 No.4 (2025)

研究・技術の解説

2 工程溶融造粒とdry powder coating を利用した機能性ポリマー被覆微粒子調製法の確立

吉原 尚輝

【要旨】

経口固形製剤開発において、薬物含有粒子(Drug-containing particles:DCPs)に対して機能性ポリマーを用いた微粒子コーティングを施すことにより、放出制御製剤とする場合がある。従来、この機能性粒子の製造方法としては湿式法が採用されてきた。一方で、製造効率や溶媒に不安定な薬物にも適用するという観点では、乾式法によるコーティングが有用であると考えられる。しかし、汎用の機器を用いてDCPs の調製から機能性付与まで、一貫した乾式プロセスで製造できる技術は報告されていない。本研究では、汎用的な高速攪拌造粒機を用いて、2 工程の溶融造粒により調製されるDCPs に対して、機能性ポリマーを乾式コーティングする新たな手法を考案した。機能性ポリマーとして、hypromellose acetate succinate(HPMCAS)を用い、新規乾式コーティング技術におけるキュアリング時間、可塑剤量およびHPMCAS 量の最適化を実施した。その結果、pH1.2 試験液における耐酸性、およびpH6.8試験液における薬物溶出が確認され、HPMCAS 由来の腸溶性機能の付与に成功した。

【Abstract】
In the development of oral solid dosage forms, fine-particle coatings are commonly used to impart
functionality (e.g., bitter taste masking, enteric and sustained release coatings) to drug-containing
particles (DCPs). The fine-particle coating process can be broadly classified as either a ‘wet’ or ‘dry’
process. Although wet coating is generally employed in order to add functionality to DCPs, dry coating
has the advantages of high manufacturing efficiency and applicability to drugs that are unstable in
solvents. However, no consistent dry processes have been reported for preparing functional DCPs, from
particle preparation to coating, using general-purpose equipment. This study introduces a novel drycoating
method for applying functional polymers to DCPs prepared via a two-step melt granulation
process. The manufacturing equipment used comprised a general-purpose high-shear granulator.
Hypromellose acetate succinate (HPMCAS), which shows enteric solubility, was selected as the functional
polymer. By optimizing curing time and the amounts of fine porous silica adsorbed plasticizer and
HPMCAS, the coated particles demonstrated drug dissolution in pH 6.8 medium but not in pH 1.2
medium.

取り巻く話題

EU のQualified Person 資格教育制度と日本のアカデミアのGMP 教育の取り組み
〜医薬品品質保証体制における教育課題を考える〜

鳴瀬 諒子

【要旨】

昨今のGMP 違反や不正問題、感染症有事は、GMP 人材不足を浮き彫りにした。日本では各企業がGMP 人材の育成に取り組んでいるが、体系的な教育の実施が難しく、特にGMP に精通したQA や製造管理者の育成は容易ではない。従来、日本にはGMP を体系的に教育する組織や仕組みがなかったが、一方、欧州にはQP 制度を通じ、大学や公的機関が充実した教育を提供している。薬学部では、製薬技術やGMP を2 年間かけて学ぶカリキュラムがあり、大学院にはQP 教育コースが存在し、患者優先の意思決定を行うための卓越した品質教育を提供している。こうした課題に対応すべく、国内のGMP 講座を持つ3 大学が連携し、欧州のQP 教育コースの考え方を取り入れつつ、日本に適したGMP 教育コースの構築を図っている。東京理科大学では社会人向けのGMP 教育を開講し、次世代のQA が患者優先の意思決定を行えるよう、QP 相当の教育コースを目指している。


選定療養開始後の調剤薬局における状況の変化

武田 郁子

【要旨】

関係法令の改正により令和6 年10 月1 日から長期収載品に係る処方箋様式の改正等が施行され、調剤薬局での選定療養が始まった。特定の薬剤においては後発品に変更しなければ一部自費負担が発生するもので、これまで頑なに先発品を希望していた患者でも、負担金を考慮し後発品に変更するケースが多く発生した。医療上の理由で後発品の使用が難しい患者については医師が明記することにより自費負担の発生のないまま先発品を使用することが可能だが、該当するケースは少ない。また、外用剤の場合には混合可否の問題から先発品を使用せざるを得ないケースがあり、後発品への変更は内用薬に比べれば少ない印象がある。しかしながら多くの後発品の需要が集中したため出荷調整をきたす薬剤も発生し、現場の混乱を招いている。


患者中心医療におけるデバイスの進化:オンボディデリバリーシステム(OBDS)が現代の治療ニーズに果たす役割

アンナ・アレグロ

【要旨】

慢性疾患の増加、在宅医療への移行、バイオ医薬品市場の拡大、皮下投与(SC)への移行が進み、モノクローナル抗体(mAbs)など高分子医薬品の投与量や粘度に関する課題が生じている。従来の自己注射デバイスでは対応が難しかった課題の解決案の1つとして、オンボディデリバリーシステム(OBDS)が注目されている。OBDS は患者に一定期間薬剤を投与するウェアラブルデバイスで、心血管疾患、自己免疫疾患、がん、希少疾患などの治療に適している。Stevanato Group のVertiva® OBDS は、流量や投与時間をプログラムによって調整することができ、患者の操作負担を軽減する設計である。再利用が可能なデバイスを使用することで、持続可能性に配慮し、環境負荷を軽減させることも可能になった。2023 年3 月、Stevanato Group とThermo Fisher Scientific は、薬剤充填から、Vertiva® OBDS の組み立てまでの、エンドツーエンドソリューションを提供する協業を発表した。これにより、製薬企業はサプライチェーンにおける課題を解決し、迅速な医薬品の提供が可能となる。

工場(研究所)紹介

Web 会議システムによる工場見学
医薬品の製造プロセスとその管理について

田中 俊幸

【要旨】

東和薬品山形工場の工場見学を、初めて「WEB」にて薬学部の学生さんにご案内をさせていただくことになった。
特に、昨今の医薬品の供給不足の大きな要因となったのは、製薬企業の「製造管理・品質管理」に関する法令順守に対する意識の希薄さである。クオリティー・カルチャーの醸成と併せて、委受託も含めた「製造管理・品質管理の徹底」は当然の責務として、継続して取り組む必要がある。さらに、医薬品の製造力を高めるためには、単に規模・施設を大型化するだけではなく、スケールアップに伴う「技術力」と「人材の育成」も不可欠である。
本稿では、「医薬品の製造プロセスとその管理」について、生産現場でどのように取り組んでいるかを紹介する。

レポート



研修会報告

教育委員会に参加して

  • 第23 期 固形製剤教育研修会
    第1 回 「医薬品の製剤設計および物性評価」 (溝淵 千里)