ー固形製剤特集号ー
Vol.33 No.1 (2024)
固形製剤特集
中上 博秋
【要旨】
製剤設計は、医薬品の有効性および安全性に係る本質的価値と患者における利便性等の向上に係る付加的価値を最大化するために実施される.ICH ガイドラインQ8「製剤開発のガイドライン(改訂)」が2010 年に発出されて以来、クオリティ・バイ・デザイン(QbD)による製剤開発のアプローチが増えてきた。医薬品の本質的価値である製品の有効性、安全性を担保するための目標製品品質プロファイル(QTPP)を明確にして製剤設計を行い、QTPP
に係る重要品質特性と物質特性および工程パラメータとの関連性についてのリスクアセスメントを通じて、物質特性と工程パラメータのクリティカリティが明らかにされ工程の理解に基づく管理戦略が明確化された意義は大きい。
また、2021 年に連続生産を適用した製品が国内で2 例承認された。QbD のより進んだ手法(PAT ツールの活用等)による高品質の保証を可能にする連続生産の適用拡大が期待される。
伊藤 雅隆
【要旨】
医薬品開発において原薬や固形製剤の物性評価は重要である。特にこれらは原理まで理解することで多くの情報を得ることができる。本稿では粉末X 線回折、熱分析、比表面積、粒度分布の各種測定について取り上げる。これらは原薬や粉体の評価をする上で非常に基本的なツールであると同時に結晶形や粒子について多くの情報をくれる欠かせない測定法である。一つ一つの測定法を理解し、複数の測定を掛け合わせることで見えてくる情報もあるだろう。
瀧野 康博
【要旨】
固形製剤の分野では原薬製造と製剤の橋渡し的存在とされている粉砕技術だが、実際にはバイオアベイラビリティや含量均一性に大きく寄与する重要な技術である。本稿ではその粉砕技術の根幹となる『切る』『押す』『擦る』『叩く』の4 原理による分類や、『粗粉砕』『中粉砕』『微粉砕』『超微粉砕』の目標粒子径による分類を紹介する。また機械式粉砕機と気流式粉砕機の違いや、それぞれの粉砕機の特徴と機種選定や条件設定で用いられているパラメータに関して説明する。粉体は粉砕する前の大きな粒子のときと粉砕後の微粒子では大きく性質が異なる。微粉になれば付着性が上がり、閉塞の問題や収率の低下という現象につながる。また微粉になって比表面積が上がることで拡散性が上がり、粉塵爆発や薬剤ばく露の危険性も高まる。そのことが原因で起こるトラブル事例とその解決方法等に関しても解説する。
浅井 直親
【要旨】
混合工程は粉粒体を扱う工程に必ずと言ってよいほど組み込まれている。ただし、その目的はさまざまであり、目的に適った混合操作が必要である。そのためには混合の機構を知り、混合機の特性を知り、混合の進行状態を評価する方法を知る必要がある。また、選定した混合機にも目的に適う操作条件が存在する。混合機の特性は粉粒体の明度を利用し、その明度の混合時間に伴う変化をもって評価する方法が(一社)日本粉体工業技術協会にて規格化されていて、さまざまな混合機特性を評価する際に有効である。また、混合機の特性を生かし乾式表面改質を発現させることができる。粉体粒子の表面改質はその粒子に新しい機能を持たせ、性能を高めることができ、さまざまな分野で実施されている。混合操作中に粒子同士の衝突や撹拌翼から与えられるせん断力により表面改質が進行する。
中村 卓也
【要旨】
「造粒」は医薬業界、食品業界を初め、粉体を取り扱う多くの業界で用いられる粉体加工技術の一つであり、製剤加工のプロセスにおいて、どのような機構・機能の造粒機を選定するかは製剤の特性に大きく影響する重要な単位操作である。ここでは製剤設計や造粒装置選定の参考になるよう、造粒とは何か、造粒装置にはどのようなものがあり、どのような構造、特徴を有するかについて概説する。
村田 幸司
【要旨】
医薬品製剤の剤形は数十種類あるが、その中で粉末や顆粒原料を圧縮して固形にする、いわゆる錠剤が現在でも全剤形の生産金額で約5 割程度を占めている。錠剤は一定量を正確に服用することができ、取り扱いが簡易であり、薬の効果時間を調節したり苦味等の味を調節したりすることができる数多くの長所を持っている。それゆえ錠剤は医薬品の中で非常に重要な剤形と言える。この錠剤を原料である粉末や顆粒から圧縮成形する機械が打錠機である。
粉末を圧縮し成形する単純な機械といえるが、打錠機は多くの部品や装置で構成され、そのひとつひとつは様々な意図を持って作られている。本稿では、その仕組みと効果を簡単に説明する。
金子 恵一
【要旨】
製剤の製造プロセスにおけるコーティングは、粒子コーティングと錠剤コーティングに大きく分けられる。本稿では粒子コーティングと錠剤コーティングの概要、製造プロセスの特徴および製造装置の概要について紹介する。粒子コーティングは単一粒子もしくは顆粒状核粒子の表面にコーティングを行うため、核粒子の粉体物性(粒子径、粒子形状、流動性など)が品質に影響する。従って、核粒子の粉体物性を考慮し、適切な装置を選定することが好ましい。錠剤コーティングは、フィルムコーティングとシュガーコーティングがある。シュガーコーティングはフィルムコーティングと比較して、被膜量が多いため工程時間が長いという特徴がある。また、錠剤コーティングにおける生産法はバッチ式が主流であるが、近年、固形製剤の生産において連続生産式が着目されており、連続生産に対応したバッチ連続式コーティング装置「CTS-PRC」についても紹介する。
固形製剤の包装容器と包装技術について:PTP 包装の基礎知識と包装技術の技術解説
鴻谷 英志
【要旨】
錠剤やカプセル剤の包装形態として広く普及しているPTP 包装は、1955 年後半に欧州から導入されて以降、内用剤の主流形態が散剤から錠剤やカプセル剤に変化した時代背景とも重なって普及したと言われている。また、PTP包装は包装技術の進歩により、低コスト、優れた生産性、小型かつ高い防護性を有するなどの観点から、現在に至るまで長らく採用され続けている。本稿では、はじめにPTP 包装に関する基本的な概要説明、および容器包装設計の観点から、錠剤の取り出し性に影響を与える要因などについても解説する。また、PTP 包装機の成形、シールなどを含む主要な工程の技術概要を抜粋して解説する。最後に、包装容器のサスティナビリティへの取り組み動向として、原料の一部に植物由来原料を採用したバイオマスプラスチック、PTP 包装の将来的なあるべき姿としてモノマテリアルPTP について取り上げて紹介する。
磯部 正和
【要旨】
固形製剤工場は中間製品のハンドリング手法により省人化や効率化に大きく影響を及ぼすため、自動化技術を取り入れて計画することがポイントとなっている。中間製品ハンドリングの自動化技術として多く採用されているのは、原料製品倉庫や中間製品倉庫の自動化、中間製品倉庫から各製造室への自動搬送、各機器への投入・収缶といったところになる。中間製品を自動搬送することによって人によるミスの削減、人と物の動線分離、コンタミリスクの
削減などのメリットがある。各工室内でのエンジニアリング要素としては投入・回収方法、それらの接続方法が高い関心事項となり、搬送方法や各工程の特徴と上手く組み合わせて構築していく必要がある。本稿ではこれらに対するエンジニアリング技術と建築計画時のポイントを紹介する。
