分子状水素(水素ガス、H2)の生体に対する抗酸化作用は2007年より注目され始めた。その後はガス吸引のみならず充分豊富に水素ガスを溶存させた水素水(Hydrogen-rich water; HRW)の飲用など種々の摂取方法が考案され、基礎とともに臨床応用の研究も進んだ。現在は作用機序として単純な抗酸化作用だけでなくシグナル伝達物質等への関与も示唆され、水素水の飲用効果として抗炎症効果、抗疲労効果も示されるようになった。しかし水素水は濃度の低い(またはほとんど溶存していない)市販品の販売が先行し、世間での悪印象はいまなお強いが、多くは誤解に基づくものである。本講演では水素水を飲用する方が腸内で直接水素ガスを発生させるより急峻に血中へ取り込まれる事実などを改めて示し、そうした体内動態の違いが健康効果の違いとなっている可能性があるなど現状の理解を整理し、領域を越えた「総合知」の力でもってこれからの薬学・製薬学が社会にいかに貢献できるかを作家の立場から考察・提案する。